帰り道にふと感じる「うまく教えられない」という感覚。
多くの場合、それは“スキル不足”として処理されがちです。
ですが、少し立ち止まってみてください。
本当にそれだけでしょうか。
同じ説明でも、伝わる人と伝わらない人がいる理由
例えば、私自身の経験でもこんなことがありました。
ある業務の手順を後輩に説明したとき、
同じ説明をしているのに、
・一度で理解して動ける人
・何度説明してもつまずく人
がはっきり分かれたんです。
そのとき最初に思ったのは、
「自分の教え方が悪いのではないか」ということでした。
しかし後から振り返ると、
問題は説明の仕方ではなく、前提の違いにありました。
人は“情報”ではなく“前提”で理解している
なぜこのズレが起きるのか。
それは、人が理解するとき、
単純に「言われたこと」をそのまま受け取っているわけではないからです。
人は必ず、
- これまでの経験
- 知識レベル
- 仕事の理解度
- 何を大事にしているか
といった“前提”を通して、情報を解釈しています。
つまり、
- 同じ説明でも「違う意味」として受け取られている
ということが起きているんです。
これは「教え方が下手」というより、
“前提未共有構造”と呼べるものかもしれません。
今回のように「同じ説明でも伝わらない」という現象は、抽象と具体のズレとしても捉えられます。こうした思考の行き来については、『「抽象思考が苦手」な30代へ:具体と抽象を行き来する力を鍛える5つの練習法』でも詳しく書いていますので、興味のある方はぜひご覧ください。
個人戦略:教える前に“前提を確認する”
ではどうすればいいのか。
いきなり教え方を変える前に、
- どこまで理解しているのか
- 何を前提に考えているのか
を少しだけ聞いてみる。
例えば、
「ここまでの流れってどう理解してる?」
「この作業の目的ってどう認識してる?」
この一言だけで、
伝え方の精度は大きく変わると思います。
「ちゃんと教えなきゃ」と思うほどズレていく理由
「しっかり教えないといけない」
そう思えば思うほど、うまくいかない。
少し不思議ですが、よく起きる現象です。
“正しく教えること”に意識が向きすぎる構造
私も以前、後輩に説明するときに、
- 抜け漏れなく伝えよう
- 誤解がないようにしよう
と考えすぎて、結果的に説明が長くなり、
逆に伝わらなかったことがありました。
これはなぜか。
「正しさ」に意識が向きすぎて、
「相手の理解プロセス」が見えなくなっていた
からです。
一般的な解釈と、もう一つの見方
一般的にはこう考えられます。
「説明が足りないから伝わらない」
しかし、もう一つの見方もあります。
「情報が多すぎて、処理できていない」
この視点に立つと、やるべきことは変わります。
個人戦略:情報量ではなく“理解の流れ”を設計する
意識してほしいのは、
- 全部説明すること
ではなく
- 理解の順番をつくること
例えば、
- 目的を伝える
- 全体像を見せる
- 一部分だけやってもらう
このように、段階的に渡すだけで
相手の理解はかなり変わります。
「どう教えるか」ではなく「どう理解が進むかを設計する」という考え方は、行動全般にも通じます。このあたりの“設計”という視点については、『習慣化の本質:意思ではなく“設計”で決まる』でも詳しく解説しています。
「伝わらない=自分の責任」と思ってしまう背景
帰り道に残るモヤモヤの正体。
実はこれも、ある意味で“構造的”です。
評価と指導が結びついている構造
会社という環境では、
後輩ができるようになる = 自分の評価にも影響する
という関係があります。
その結果、
教えることが「支援」ではなく「成果責任」になる
“教えること”がプレッシャーになる理由
本来、教えるという行為は
- 相手の成長を支える
- 一緒に試行錯誤する
というもののはずです。
しかし実際には、
- 失敗させてはいけない
- 早くできるようにしないといけない
というプレッシャーが乗る。
その結果、
「うまく教えられない=自分がダメ」と感じやすくなります。
個人戦略:教える=コントロールではない
ここで一つ視点を変えてみると、
教えるとは
- 相手をコントロールすることではなく
- 相手の理解を“支援すること”
だと思います。
この違いだけでも、
気持ちは少し軽くなるかもしれません。
教えることを「コントロール」ではなく「支援」と捉える視点は、職場の人間関係全体にも応用できます。対人距離の設計については、『職場の人間関係がしんどいと感じたときに考えたい“距離設計”』でも触れています。
後輩が自ら考えるようになる”問いかけ”の技術
後輩に教えるとき、つい「こうしたほうがいい」「こうするべき」という言い方になりがちだ。しかし、答えを渡すほど相手の思考は停止していく。大切なのは、相手が自分で考えるきっかけをつくることであり、それを可能にするのが「問いかけ」だ。
たとえば、「なぜそうしたの?」ではなく「どういう理由でそのアプローチを選んだの?」と聞いてみる。ニュアンスは似ているが、後者のほうが相手に思考を促しやすい。問いかけの言葉一つで、後輩が「考えながら答える経験」を積めるかどうかが変わる。
「失敗を一緒に振り返る」が成長を加速させる
後輩が失敗したとき、その場でのフォローより大切なのが「後日の振り返り」だ。「あのとき何を考えていた?」「次は何を変えてみたい?」と静かに問うことで、後輩は失敗を学習の材料として消化できるようになります。叱ることでも褒めることでもなく、一緒に問いを立てることが、自立した思考力を育てる近道だと感じています。
後輩の”成長を待つ”忍耐力こそが指導の核心
後輩指導で最も難しいのは、技術や知識を伝えることではなく、「成長するまで待つ」忍耐力を持つことだと感じています。すぐに答えを教えてしまいたい衝動、失敗を見ていられない感覚——これらは相手への思いやりから生まれるが、長期的には後輩の自立を妨げることがあります。
「待つ」とは放置することではありません。進捗を確認しながら、方向がずれていれば軌道修正の問いかけをする。うまくいかなかったときは一緒に振り返り、次のアクションを後輩自身に考えてもらう。このプロセスを根気よく続けることが、後輩の「自分で考える力」を育てる。指導の成果は短期では見えにくいが、半年後・1年後に確実に現れる。
指導者としての「自分の成長」も忘れずに
後輩を指導することは、自分自身の成長の機会でもあります。「なぜこれが大切なのか」「どう伝えれば伝わるか」を考えることで、自分の知識や経験が整理され、より深く理解できるようになります。後輩の成長を支えながら、自分も指導者として成長していく——この相互成長のプロセスが、職場での指導をやりがいのある経験に変えていく。後輩のためだけでなく、自分のためにも指導を大切にしてほしい。
後輩の成長を引き出すコミュニケーション設計
後輩への指導がうまくいかないとき、その原因は往々にして「伝え方」ではなく「関係性の設計」にあります。指示や助言の前に、後輩が今どんな状態にあるか、何に不安を感じているかを理解することが先決だ。教える立場である以上、自分の正解を押し付けるのではなく、相手が自ら考え動けるような問いかけを意識することが重要になります。
信頼関係が指導の効果を決める
後輩は「この人は自分のことを見てくれている」と感じたとき、はじめて指導を受け入れる姿勢になります。そのためには、成果だけでなくプロセスを評価し、失敗を責めるのではなく次への学びとして共有する関わり方が必要です。指導とは情報の伝達ではなく、相手の可能性を信じて伴走することだと理解したとき、関係の質は大きく変わる。
まとめ:教え方ではなく“構造”で見ると楽になる
ここまでの話を、少し整理してみます。
「後輩 指導 うまくいかない」と感じるとき、
多くの人は“教え方”に原因を求めます。
ですが実際には、もう少し別の構造が動いています。
再定義:問題は“教え方”ではない
- 伝わらない原因はスキル不足ではなく
- 前提のズレや理解プロセスの違い
構造整理:起きている3つのこと
- 前提未共有構造(理解の土台が違う)
- 情報過多構造(説明しすぎている)
- 評価接続構造(プレッシャーが乗る)
個人戦略:明日からできること
- いきなり教えない
- まず相手の理解を聞く
- 少しずつ渡す
完璧にやろうとしなくて大丈夫です。
また、「教えること」にプレッシャーが乗ってしまう背景には、評価との結びつきがあります。この“努力と評価のズレ”については、『頑張っているのに報われないのはなぜか?努力と評価がズレる構造』でも詳しく整理しています。
帰り道で感じるあのモヤモヤ。
それは、あなたが「ちゃんと向き合おうとしている証拠」だと思います。
だからこそ、無理に「教え方」を磨こうとする前に、
少しだけ構造で捉え直してみてください。
ほんの少し見え方が変わるだけで、
明日の関わり方は、きっと変わっていきます。
よくある質問
Q. 後輩にうまく教えられないと感じるのはなぜですか?
「自分がわかっていること」を「相手が何を知らないか」という視点から伝え直す作業が難しいからです。知識があることと、教えられることは別のスキルです。
Q. 後輩への教え方が上手くなるためのコツは?
「なぜそうするか」を一緒に伝えることが重要です。手順だけ伝えると応用が利かない後輩が育ちます。背景・理由・例の3つをセットにして伝えると理解が深まります。
Q. 教えても伝わらない後輩への対応はどうすればいいですか?
「伝え方の問題」と「習熟の問題」を分けることが大切です。同じことを別の角度から伝えてみる、実際にやってもらいながら確認するなど、アプローチを変えてみましょう。
今日も読んでいただき、ありがとうございました。
それではまた、次の記事でお会いしましょう。





